酔っ払い日誌1

酒乱記録

ここでは、3度の飯より酒好きな僕が、ビアパブやバーを巡ったときの体験談や失敗談などを紹介していきたいと思います。
子供を持つ親の方は、お子さんにこの「酔っ払い日誌」を見せて、そしてくれぐれもこんな大人にだけはならないことを教え込みましょう。
ハードボイルド入門
あれは僕が始めてバーに行ったときのこと。
僕は酒が飲める年齢になるずっと前からバーというものに憧れていて、「バーに行く=出来る大人」だと考えていた。
そしてあんなシックな雰囲気で酒を飲む人間はフィリップ・マーロウや、シャーロックホームズ、新宿鮫みたいにハードボイルドに違いないと思っていた。
ハードボイルドを目指す僕としては、どうしてもバーは越えなければならない壁だった。
間違いなく大人の階段の一歩目だった。

20歳になったある日僕は決心を固めて、大学の入学式のときに買った真新しいスーツを着て、品川のバーに行った。
「ハードボイルドに、ハードボイルドに」と、それだけを心の中で唱えていた。
品川のバーは、僕の中のハードボイルドのイメージにぴったりだったから、バー初体験をするならここだ、と昔から目を付けていた場所だ。

扉の前に立って、深呼吸をしてから、薄暗い店内へと入る。
中にはバーテンダーが男と女合わせて2人、客は僕のほかには誰もいなかった。
僕の心臓は、慣れないバーの空気に何時もより激しく鼓動していたけれど、それを表情に出さないように努めて、あたかもバー慣れしている客かのように装いながら、カウンターの席に座った。
相変わらず心の中では「ハードボイルドに、ハードボイルドに」と唱えていた。
出来るだけハードボイルドに見せるために、この日のために買った、慣れていないタバコを、ゆっくり時間をかけて吸った。
大人の階段は高くて
男のバーテンダーが「注文は何にしますか?」といってきた。

「そうだねー。じゃあバーボンもらおうか」
「かしこまりました。バーボンの何にいたしますか?」

ここで僕は固まることになる。
バーボンの何って…。
バーボンに種類なんてものがあるなんて知らなかった。
今まで散々ハードボイルドに振舞ってきたから、ここで僕がバーボンの種類も分からない素人だと露呈するのだけは避けたいと思った。
それだけはいくらなんでも恥ずかしすぎる。
大人の階段踏み外して真っ逆さまに落っこちることになる。
僕は考えた。この危機的状況を打開するにはどうすればいいかを。

バーテンダーが、固まった僕に怪訝な顔をしたのが耐えられなくなって咄嗟に、

「お、お勧めで」
「はい?お勧めといわれますと」
「い、いや、バーテンダーさんの今日のお勧めが飲みたいなー、なんて、ハハハ」

完全に陽気な客になってしまった!
その後、ハードボイルド路線で続けるのが苦しくなった僕は、半分やけな気分で、酒を飲みながらバーテンダーさんと喋りまくった。
バーに来るのが初めてだということや、酒の種類に詳しくないこと、東京に来てまだ日が経っていないこと、などなど全て白状した。
バーテンダーさんは気さくな人で、僕の話を面白おかしい相槌を打ちながら聞いてくれた。

ハードボイルドになることは出来なかったけれど、バーテンダーさんといろいろ話して、仲良くなることが出来て嬉しかった。
そのバーは今でも仕事で行き詰ったときに行く場所の1つになっている。